「ルールは先に一本有効打を入れた方が勝者。足技やその他の技も使ってよい。ただし生人さんは宇宙人の力を使わないこと。で良いかな?」 「ボクはそれでいいよ! 技術だけで戦えってことだよね」 その条件下では体格から生人の方が圧倒的に不利なはずなのに、出された条件を二つ返事で認める。圧倒的な自信だ。 「アタイもオッケーだ。一泡吹かせてやる」 だがこちらも負ける気はない。 生人の動きなら今までたくさん見せてもらった。パターンはある程度予測できる。勝機がないわけではない。 「では試合……始めっ!!」 桐崎の号令と共にアタイは見様見真似で先程の生人の動きを真似て接近する。 (最速で勝ちにいく……なら……こうだっ!!) 脇を締めて突きと振りを合わせた攻撃を繰り出す。緩急をつけた最速の攻撃。しかしそれは容易く弾かれてしまう。力で退かしたのではない。木刀の表面を滑らして威力を殺していた。その動きに無駄など一切なく洗練されている。 だがカウンターは飛んでこない。アタイは数歩下がり様子を窺う。 「あと二回までなら打ち込んできてもいいよ」 ルール上受け手に回るのは圧倒的に不利なはずだ。なのに敢えて攻撃を受けようとする。 そこにあるのは師匠として直接攻撃を受けてみたいのか、単純に油断か。とにかくアタイはその挑発に簡単に乗ってしまいそうになる。 (ためだだめだ! 感情的になっても攻撃は当たらない。何か他の手を……) 今度は趣を変えて、一発一発に力を込めるのではなく連続で攻撃を繰り出す。先程の教えを活かし素早く手数を増やし翻弄しつつ、ここぞというところで拳を胴体に向けて放つ。 「そう来ると思った」 だがコンマ一秒のズレもなくアタイの拳は受け止められ、そのまま捻られ視界が一回転し背中を打ちつける。 「いててて……はっ!!」 アタイはすぐに起き上がりまた距離を取る。先に背中の心配をしてしまった。今のが実戦ならそのまま頭を貫かれていただろう。 「じゃあこっちからいくよ!!」 こちらが構え直したのを確認してから生人の猛攻が始まる。ただ突き出された単純な攻撃も受けるだけで手が痺れて、その手数の多さからカウンターなど狙う隙がない。 彼の顔に疲れは見られずこれでも手加減してくれているのだろう。この攻撃の嵐の中アタイは
「でりゃぁぁ!!」 道場に木刀同士がぶつかり合う音が響く。アタイが振り下ろした渾身の一撃は橙子に受け止められる。しかしそのままギリギリと力を込めていけばこちらが押していき、やがてその防御は崩される。 「うぐっ……」 「ちっ……」 しかし双方ともダメージを負う。アタイの腹部の装備に彼女の切先が突かれ、アタイの木刀が面を強く叩く。 「はい一旦ストップ!!」 離れて見ていた生人が組み手を中断させこちらに水を持ってきてくれる。 「んぐ……んぐ……ぷはぁ。まさか今のが返されるなんて。絶対勝てると思ったんだけどな……」 「こっちも完璧に裏を突けたと思ったんだけどね」 ここは桐崎家が管理する施設であり、現在道場として使わせてもらっている。アタイ達三人以外に人は居らず、誰かが来ることもない。訓練するにはうってつけの場所だ。 アタイはひんやりとした地面にあぐらをかいて座り、装備を外して汗を拭きながら水分を補給する。 「二人ともかなり動きが良くなってたよ! この短期間で信じられないほど成長してる!」 「それはいいが、今のわたしでこの前生人さんが戦った奴らには勝てるのかな?」 合宿の後生人から聞いた話。わたしと橙子は今後の戦闘のためになればと思い、あの時あった戦いについて聞いていた。 敵の中でもかなりの強者だと思われる三人。生人は彼らを一度に相手し苦戦しつつも打ち勝っている。 「……一対一で考えても勝率は二割くらいかな」 生人は厳しくも正確な推論を述べる。実際あの時戦ったアンコウみたいなのが中の上程度の実力ならそれも納得だ。 彼が言うには力も速さも他のイクテュスとは比べ物にならないという。 (できて相打ちくらいか……生人に頼りきるわけにもいかないしな。アタイがもっと強くならないと) キュアヒーローの犠牲は絶対に許さない。それは翠が一番望んでいないことだから。 だから自分が強くなるしかない。みんなを奴らから守れるくらいに。 「今の動きもまだ良くないところもあった。お互いにね」 「本当か? 教えてくれ」 「まず神奈子は攻撃が大振りすぎる。力は強いけど当たらなければ意味がない。それに力が強いということはその分受け流された際のリスクが大きいってことでもある」 的確な意見だ。アタイは喧嘩慣れこそしているものの、武術を習って
「海に……入れる……!!」 私は水飛沫を立てながらもより奥へ歩いていき、膝くらいの深さまである所まで進む。それでも足はしっかり地面を踏んでいるし、波にも拐われない。 「高嶺……!! やったじゃない!」 波風ちゃんは私の克服をまるで自分のことのように喜んでくれる。こちらに飛びついてきて、彼女が上に乗っかるようにして水の中に倒れる。 「ぺっぺっしょっぱ!」 「あっ……大丈夫?」 「うん全然! 今まで怖がってたのが嘘みたい!」 口の中に広がる塩辛さに水着の上から全身を包み込む冷たさ。どこにも不快感がない。 いややっぱり塩辛いのは不快だ。しょっぱくて水分が奪われる。 だが過去にあったような、全身が震えて神経を直接撫でられるような感覚はない。 「やった……やったよ!」 今度はこちらから波風ちゃんに抱きつき胸に飛び込む。赤色の景色が視界いっぱいに広がり、ほんのり柔らかい感触が顔を包み込む。 「ちょっ……!!」 ほぼ突進のような抱きつきだったため、私と波風ちゃんは共に倒れ海に沈んでしまう。 「もう高嶺! やったわね……!!」 仕返しと言わんばかりに波風ちゃんは両手で水を掻き上げこちらにかけてくる。 たくさん顔に水が押し寄せるが何にも感じない。お互いに水を掛け合って、また一緒に倒れて抱き合って。 何の後ろめたさも恐怖もなく私は大好きな彼女と微笑ましい時間を送るのだった。 ☆☆☆ 「ふぅーなんだか疲れちゃった……」 「はい水飲んどきなさいよ。案外水分失うんだから」 「あははありがとう」 私は波風ちゃんから口をつけて飲むタイプの水筒を受け取る。それに口をつけようとするのだが、ある考えがよぎりピタッと止まってしまう。 (これって……間接キスってやつになるのか……?) 漫画とかで映画で今みたいなシーンを見ても、わざわざそんなこと気にしなくてもいいと思っていた。実際今までも気にせずやっていた。 だが何故か今は間接キスを行うことがとても恥ずかしく抵抗感がある。 嫌悪感を抱いているわけなのではない。寧ろ…… (あれ……これって……) 自分の中のある感情に気づいてしまい、更にこれを飲むことに抵抗感を覚えてしまう。 (そっか……きっと私は、波風ちゃんのことが……好きなんだ。恋愛的な意味で) 「どうしたの高嶺
「じゃ、帰る時間になったら連絡してよまた迎えに来るから」 「ありがとねたけ兄」 「いやいや大学生の夏休みはここからが本番だからね! 俺は出会いを探しに山を走ってくるよ!」 健さんに海水浴場まで送ってもらえることになり、私達はここまで車で来る。 大学生の夏休みはなんと十月の頭まであるらしく、まだ半分もいってないらしい。 「なんか夏休みになってたけ兄さらにはっちゃけてるわね」 「事故とか事件とか起こしそうで心配だね」 「まぁその時は縁切るわ」 話もそこそこに私達は海水浴場に入り辺りを見渡してみる。夏休み最終日だからか中高生は少なく、大学生や社会人以上の人が多い。 そして人混みの向こうには揺れ動く塩水が待ち構えていた。邪悪にも人々を波で拐いまた元の場所に戻す。 「大丈夫高嶺?」 「うん……歩けるし、海も直視できる……大丈夫だから……」 人々ははしゃいで海で遊んでいる。浮き輪でぷかぷか浮きながら波を楽しむ者や、奥の方でサーフィンをする者。それに砂浜で城を作る者や日光浴をする者。 誰も海を怖がっていない。そうだ。全員が全員トラウマを抱いているわけではない。あの震災は甚大な被害を出したが、私程のトラウマを抱いた人の方が少数なのだ。 私達は着替えるべく仮設小屋に向かいロッカーに服を入れ水着姿になる。 「どうしたの? じーっとこっち見て?」 波風ちゃんに視線が釘付けになっていたことに気づかれ、私はさっと目を逸らす。 彼女は濃い赤色のビキニを着ており、ヒラヒラが体を動かす度に揺れ胸に視線が誘導されてしまう。 「い、いや何でもないよ!」 私もささっと水着に着替える。波風ちゃんとは対照的にカラフルで子供っぽい水着だ。 (やっぱり私じゃ波風ちゃんには不釣り合いだよね……) どんどん大人びていく彼女に、未だ小学生気分の私。なんだか彼女が段々と離れていくような気がして胸が冷たくなる。 「さっきからどうしたの? 海を怖がってるってわけでもないし……何か悩み事でもあるの? ハッキリ言いなさいよ。アタシとの仲でしょ?」 それでも波風ちゃんは私に寄ってきてくれて独りぼっちにはさせないようにする。その優しさが胸に染み、本音を吐けるよう解凍される。 「なんだか波風ちゃんだけどんどん大人になってって、このままじゃ私は置いてかれちゃう
「あれぇ? えーっとなんて言うんだっけ? うーんと……」 夏休み最終日。私はやり忘れていた読書感想文に苦しめられていた。上手く文字で感想を表現できず、近くに辞書を持ってきたものの活用できていない。 「そこは短絡的な考え。とかでいいんじゃない?」 「あっ、そうか! えっと、短絡的な考えで行動してしまったことがこの結末の原因に……」 波風ちゃんも助けに来てくれて、そのおかげでなんとか午前中には終わりそうだ。というより波風ちゃんが来なければ読書感想文があったことすら気づかなかった。 「よし……よし! やっと終わったぁ……!!」 お昼前。やっとのことで読書感想文が終わり、これにて夏休みの課題は全て終わったことになる。 「ありがとう波風ちゃん! 波風ちゃんが居なかったら絶対終わってなかったよ……!!」 「本当よ全く……アタシが居ないとダメなんだから」 この前の合宿以降イクテュスが現れることはなく、私達はちょくちょくみんなで集まったりしながらも平和に暮らしていた。 作戦会議だったり訓練もしたが、息抜きで遊園地に行ったりプールに行ったり本当に楽しい日々だった。 それも今日で一旦区切りとなる。明日からはまた学校が始まる。クラスメイトのみんなに会えるのは嬉しいが、それでもどこか寂しさが残る。 「ねぇ波風ちゃん……今から海に行かない?」 「え……? 海ってアンタ大丈夫なの?」 波風ちゃんがこちらの正気を疑ってくるのも当然だ。 私は海に対して激しいトラウマを抱いている。映像だとしても見るだけで吐いてしまうこともあった。 「ずっと逃げてるわけにもいかないからね。この前プールだって入れたし、顔だって浸けれた。だからきっといけるはずだよ! もう克服できるはず……!!」 口に出すまでは絶対に大丈夫だと自信を持っていたが、いざ言葉にしてみると体の震えが止まらない。本当に大丈夫か心配になり不安が消えない。 そんな時震える私の肩にポンッと波風ちゃんの手が置かれる。優しい温もりがある彼女の手が。 「一人で頑張ろうとしない。アンタにはアタシがついてるでしょ?」 「……そうだったね。ごめん。また塞ぎ込んで自分のことしか見えてなかった」 「確かにね。アタシが来てなきゃ読書感想文に気づかず明日大恥かくところだったしね」 「うっ、それは……その…
「ぜぇ……ぜぇ……ゼリル〜ライ姉〜もう走れないよ〜」 あの化け物じみた奴からなんとか逃げ、十分距離が取れたのでオレ達はメサがこれ以上喚かないように足を止めて一旦休憩に入る。 「ありゃゼリルが勝てないのも納得だわ。ワタシが潰しても、メサが細切れにしても何度でも再生しやがる」 奴の再生には限度があると思っていた。三人で猛攻を仕掛けて休む暇を与えなければ、再生できないほどバラバラにしてやれば良いと作戦立てた。 だがそれが間違いだった。オレ達は奴を十個程にバラバラに切り裂くことに成功し、念を持ってその各部位を更に千切ったり潰したりした。 それなのに奴は再生し、なんならバラバラになったまま各方向から攻撃を仕掛けてきた。あれは人間どうこうとかいう次元じゃない。地球上に居ていい、この世に居ていい生き物じゃない。 「でもゼリルが煙幕を持ってきてくれたおかげで助かったよ」 「本来使う予定なんてない、予備の予備プラン用だったんだがな」 オレ達の作戦は失敗した。だが問題はない。実力者であるクアンをあの弱っちぃ奴らの元に向かわせた。それでブローチを回収できれば問題ない。 (時間は稼げた。クアンなら奴らの攻撃は効かないだろうし、こっちの作戦勝ちだな) あとはあいつの合流を待つだけ。オレ達は人間態へと戻りクアンを待つ。 だがどれだけ経ってもクアンが戻ってくる気配はない。 「ゼリル様!! 大変です!!」 心配が膨らむ中、偵察担当のオネがかっ飛んでくる。その小さな体でぷかぷかと浮き、あたふたとしている。 「何があった?」 「クアン様が……クアン様が……奴らに敗けて捕えられてしまいました……!!」 報告された内容は信じ難いものだった。この前の実力から考えても奴らがクアンを倒せるわけがない。卑怯な手を使う余地もないはずだ。 「奴ら奇妙な武器を使い出して……それで捕まったクアン様は拷問される前に自ら命を……」 「あの馬鹿野郎……!!」 オレは悔しさのあまり地面強く殴りつける。 (武器……? 人間の標準装備じゃないな。となると別に技術提供者がいる? やはりキュアヒーローのシステムを作ったのもそこか?) 怒る反面内心では冷静に状況を分析してしまう。 「そんな……クアンおじさんが死んじゃったの!?」 あいつに一番可愛がられていたメサはオ